紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所(三重県津市)
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 三重県のため池の生物

 
チョウトンボ

 夏の明るい昼下がり、三重県津市野田にある赤池という農業用ため池の堰堤で、生まれて初めて1匹のチョウトンボに出会った。ヒラヒラと蝶のような「優雅」な飛び方をし、後翅(こうし)がやや幅広の黒っぽい(はね)を持ったトンボに思わず見とれてしまった。

筆者は、埼玉県の浦和市(現在のさいたま市浦和区)の郊外で少年時代(昭和30年代)を過ごし、捕虫網を持って駆け回った昆虫大好き少年であった。しかし、その地域にはため池がなく、止水性のトンボであるチョウトンボが生育できる環境が乏しかったせいか、このトンボに出会う機会はなかった。

チョウトンボは、飛びながら風に流されたり、池の端に生える草の先端に止まったりして、暫く堰堤付近にいたが、人の近づく気配に驚いて空高く舞い上がり、木立の上の方に消えて行ってしまった。

その後、津市と松阪市に分布する面積が2ha以上の40ヶ所ほどのため池を、「ため池データベース」を作るために訪ねたが、チョウトンボを見かけたのは上記を含めて4カ所のため池のみであった。

津市安濃町にあるため池で、数匹のチョウトンボが池面を薄く覆ったヒシの葉の上を飛び回り、時には葉にとまり、あるいは、岸辺の木立の上の方に飛び上がったりしていた。

最も多くのチョウトンボを見たのは、津市大里窪田町の大沢池であった。コンクリートの堰堤を挟んで、池と反対側の空間に数十匹のチョウトンボが羽ばたいたり滑空したりして入り乱れて群飛しており、しかも、2カ所で群飛が同時に見られた。その状況を夢中になってデジタルカメラで撮影したが、トンボの群飛を撮るのは至難であった。


大沢池は、ヒシが高密度に繁殖しているため池であり、筆者はヒシの異常繁殖に伴う生物影響に注目して調査を行っていた。このようなため池でチョウトンボが多数群飛したり、その一部がヒシの葉の上を行き来し、時に止まったりしている光景に出会って驚いた。

 チョウトンボの未成熟成虫は群飛しながら、空中を浮遊する微小昆虫を摂食しているようだ。コシアキトンボの未成熟成虫も、ため池周辺の木立の空間などで群飛する光景がよく見られる。成熟したチョウトンボの雄はため池の水面上になわばりを作り、他の雄がなわばりに入ってくると追い払うパトロール行動をし、時々植物上に止まって休んでいる。交尾は飛びながら行ったり、植物にとまって行う。交尾を終えた雌は、尾部末端で水面を連続打水して産卵する。幼虫は、水中の枯れた葉や植物体の下に潜んでいる。

 チョウトンボの生息するため池は、いずれも水生植物(ヒシ、ヨシ、カヤツリグサ科植物のいずれか)が繁茂していた池であった。特に、ヒシの繁茂はこのトンボに好適な生育環境を提供しているものと推察される。ヒシの繁殖は、夏期にはため池の水質を浄化し、また、水中に迷路のような根茎空間を作り、水生動物が、外来魚、コイ、アメリカザリガニなどの捕食から逃れやすい環境を提供している。このことが、大沢池に外来魚が生息しているにもかかわらず、モツゴ、ヌマエビ、トンボ類などが多い要因の1つとなっていると思われる。(2009.10.17 M.M.)

 (写真は、チョウトンボ)


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